相手の石を攻めるということは、囲碁においての1つの大きな楽しみであり、魅力を感じるところだと思います。
相手の石を攻めて、大石を取り上げることができたときには、とても気分がいいですし、ますます囲碁が面白くなってくることと思います。
しかし、囲碁において「相手を攻める」ということは、相手の石を取ることとは意味が少し違う面があります。
攻める目的
例えば将棋では、相手の王将を取れば勝ちですから、相手を攻めてそのまま王将を取れればよいわけですが、囲碁は、最終的に自分の陣地の多い方が勝ちというルールですので、相手の石をとることと勝負に勝つこととは同じではありません。
もちろん40子も50子も石をとれれば別ですが、例えば5子や10子の石をとっても、最終的に自分の陣地が半目負けていたら、その勝負は負けなのです。
つまり取った石の数が必ずしも勝敗を決めるわけではないということです。
囲碁において「攻める」という行為の目的は「相手の石を取る」ということだけではありません。攻めることによって「自分が得をする」ということを目的とするのです。
どのようになれば得をするのか?それは「模様を広げる」、「自分の地を増やす」、「自分の弱い石を強くする」、などによって得をするのです。
もちろん「相手の石を取る」もここに含まれます。ただ、大事なことは、相手の石を取ることだけが攻めの目的ではないということです。
攻めて得をする
攻めながら得をするような打ち進め方について、具体的な例を上げます。
図1
図1は置き碁でよく説明される図です。黒番です。
○印の白石に対し、黒1とコスミツけて白2と立たせ、黒3, 黒5と攻めます。
この白6までの白石、これを取りにいっているのではありません。弱い○印の白石を攻めることによって、黒3や黒5, 黒7といった得な手を打っているのです。上辺や右下の領域について、これが必ずしもそのまま黒地になるわけではないのですが、白2,4,6の3手をここに費やしていることに比べると、得をしている手には違いありません。うまくいけば、部分的に地としてまとまるかもしれません。
スポンサーリンク黒1からの攻めを実行しなければ、右上隅は白から三々を狙われるでしょうし、この図でも白石が強くなれば狙われます。しかし、このように攻めている間は白から三々に入られることはありません。それは○印を含めた白石がますます弱くなるからです。そこで折りをみて隅を守る手を打てば右上隅は地になりますし、実際その手が大きい手となることもあるのです。
図2
図2、黒番です。右側は上下対称の図で原理的な図ではありますが、ここで、白1と深く入ってきたとしましょう。
囲碁を少し勉強されてきますと、白1は入り方の目安としては深すぎでしょう。黒2とボウシします。続いて黒4, 6です。
この図も白1,3,5の3子を取りきるつもりはないのです。この黒の大模様の中でもがくことになりますが、活きるくらいはできるでしょう。
でもこの黒2,4,6により、左辺に新たな模様ができそうです。右辺の白石のもがきによって黒2,4,6のあたりは更に強化されるでしょう。左辺を新たな戦場にすればよいのです。
もちろん、右辺の黒は厚いので、白がもがく間に右辺にも地もついてくるかもしれません。
自分の弱い石を強くする
相手の石を攻めることによって、自分の弱い石を強くするように打つこともとても大事です。
攻めながら守る、攻守一体の手はとても効率がよいのです。
自分の弱い石を強くしておけば、相手に攻められる心配がなくなります。それは、弱い石を攻められることによって相手に得をさせる、といったことを防ぐことになっているのです。
図3
ちょっと難しい例ですが、図3を上げました。
これは、趙治勲二十五世本因坊が書かれた、
趙治勲達人囲碁指南〈2〉戦術の達人(河出書房新社)
の、p.17の説明図(図1)から引用しました。
左上のaの地点に黒が先に打つかどうかということについて、解説されています。図aに打つと左上はしっかり治まり、攻められる心配がなくなるのですが、目下このままではいずれ弱い石になるかもしれません。
さて、後手を引いてまでaを慌てて打つ必要が果たしてあるかどうか?
ここで黒1と打って△の白石を攻めます。白2と逃げた時に黒3。相手の白石を攻めながら黒3と打って、自分の弱い石を補強しながら頭を出し、引き続き白の攻めをみます。
このような打ち方が例として考えられます。
また、この図はもっと深いところまで説明されています。
考え方として、黒aを打つと、△印の白石が活きた黒石に近づきすぎていて、攻められても逃げにくく、つまりは軽くなります。つまり、黒aを打ったあと、黒1と迫っても必ず逃げてくれるとは限らなくなるのです。
ですので、黒aを打たずに、黒1と攻め、白2と逃げさせて、攻めの一貫として黒3と動いていくのが良い打ち方というわけです。
このように打っていて、左上の黒石がなると、黒aは省略できるかもしれません。
相手の石はなかなかとれない
上記の記事にも書きました。
たくさんの対局をこなしていくうちに、だんだんとお気づきになってくると思います。
「相手の石はなかなか取れない。。。」
その通りです。実は相手の石を取ることはそう簡単ではないのです。
それはもちろん、相手と交互に一手づつしか打てないからです。
自分の棋力が上がってくると、特にそれが実感されると思います。
ですので、考え方を変えて、「相手の石をとる」のではなく「相手の石を攻める」ことを主眼におくようにするのです。
つまり、相手の石をとれなくてもよい、攻めることによって得をすればそれでよい、と考えることです。
石を取ることだけを考える碁から、石を攻めて得をする碁になってくると、棋力がぐっと上がってくるはずです。
小さく取るより大きく攻める
相手の石はなかなかとれないものですが、上手の人と打っていると、局面によっては相手の石を”あっさり”取れることもあります。
でもこれは、相手がその石を「捨石」にしていることがあるので要注意です。
捨石は、石を捨てて打つ代わりに別の形で得をはかる手段です。いい形を得たり、厚みを得たり、地を得たり、連絡したり、・・・。あるいは死活にもでてきます。
また、その石がカス石であった場合、そのカス石を取っている間に相手は別の場所に先行して、やはり得をしている場合もあるのです。
数個の石をとることができても、逆に相手にもっと大きな得をさせては勘定が合いませんね。
ではどうすればよいか?
例えば、相手に小さく捨てられないように、大きく攻めて得をするという手段が考えられます。
白は根拠がないのでしばらくは逃げる手を打つでしょう。その黒は方々で得をすればよいのです。
ただし、いつも大きく攻めればよいというわけではなく、小さく味よく取るほうがよい場合もあるのが囲碁の難しいところです。これは別の機会に説明します。
まとめ
- 攻めることによって「自分が得をする」ということを目的とする。
- 攻めながら守る、攻守一体の手はとても効率がよい。
- 相手に小さく捨てられないように、大きく攻めて得をする。